「『GHz』と『Gbps』って何が違うんだ!」
私が入社した頃、当社にはこの段階で混乱し、つまずいてしまっていた営業員がかなりいました。現在では社内教育を通じて大分良くなっていますが、当時はお客様の求めるものを把握するために、余計な手番をかけてしまっているケースも散見していました。
「GHz」と「Gbps」は、それぞれが「周波数」と「データレート」の単位です。今回はその辺り言葉や関係で混乱している方にも、なるべく「腑に落ちた」状態で理解いただけるように説明していきたいと思います。
周波数は文字の通り「周って」くる「波」の「回数」という意味ですね。海でも波というのは次から次へと連続してやっています。周波数の話をするときには、原則として「1秒間に何個の波が来るか」が単位となり、これを「Hz」=ヘルツと呼びます。
では、一個の波というのはどういうものでしょうか?
波というものは、山と谷がセットになってうねっていくものですね。この山と波を1個づつ合わせたものを「波一個」として数えます(図1)。尚、図1に示したような形の波を「正弦波」と呼び、最も基本的な波です。「サイン、コサイン、タンジェント」という響きを耳にしたことがあると思いますが、そのうちサイン=Sinが和語では「正弦」となります。ちなみにコサイン=cosは山半分=波1/4個分ここからずれたもので、和語では「余弦」と呼ばれます(タンジェント=tanはSin/Cosとなるのですが、少しだけややこしいので省きます)。
そして周波数は、この波が1秒間に何回表れるかです。1秒に1個ならHz、1000個でKHz=キロヘルツ、百万個でMHz=メガヘルツです。GHz=ギガヘルツになると、この波が1秒間に10^9=10億個登場することになります。
デジタル信号は「0111100011010101…」というように、0か1で作られてます。信号の「波形」のイメージは、図2のようになります。この0か1かのどちらかが1秒間にどれくらい出てくるかが「データレート」と呼ばれ、bps=ビットパーセコンド=ビット÷秒で表されます。周波数と同様に、K→M→Gと大きくなるにつれて単位が出世します。1.0Gbpsというのは、0か1かはともかく、どちらかが合計で1秒間に10億回登場するということになります。
信号には「周波数成分」というものがあります。つまり、このデジタル信号も、いくつもの「波の重なり」でできているのです。
では、このデジタル信号を電気で送るとき、電気的に「一番忙しい」のはどういう状態でしょうか?
「忙しい=動きが激しい状態」と認識してください。そうすると、0と1が毎回入れ替わって連続して出てくる状態が一番忙しいのです。少しだけ飛躍しますが、「一番忙しい時」が「一番高い周波数を持っている」と考えてください (後述する高調波の話は、どちらかというと「形」=「波形」よりの話なので、この考えで概ね間違いありません)。
最初に説明したとおり、波は「山と谷がセット」で1個です。この忙しいデジタル信号を眺めていると、1が山で0が谷ですので、この組み合わせで「波一個かな?」と把握できます。1と0で2bit分ですから、そうすると直感的に「データレート(bitの出現頻度)の半分の周波数が強そうだな・・・・」と気づくと思います(図3)。
このデータレートの半分の周波数(2.0Gbpsだと1.0GHz)を、ナイキスト周波数(Nyquist frequency)と呼び、デジタル伝送に置いて最も強い成分、かつ「基本周波数」としては「最も高い周波数」になります。ちなみに、このナイキストはデジタルの標本化定理※を見出したハリー・ナイキストさんという方の名前からとられていますので、トリビアとして知っておくといつか役に立つかも知れません。
※アナログ信号をサンプリングするには少なくともその周波数の2倍の頻度で採取が必要というもので、「ナイキスト周波数」も厳密にはサンプリング頻度=Data Rateで表現できる「最大周波数」という定義です。
さて、上に「基本周波数」としては「最も高い周波数」と書きましたが、それ以外にもっと高い周波数成分も含んでいます。やさしく丸っこい正弦波の波形に比べるとデジタル波形は角ばってシュッとしてます。その形を得るために、高い周波数成分「高調波」と呼ばれる成分を含む必要があるのです。少しずつ難しくなりますが次の項で説明します。
音楽をやっている方はご存知の方も多いと思いますが、正弦波の「音」は、「ポーン♪」という時報のようなすっきしりした、でも少し物足りないような音です。この時報の音に、「倍音」「ハーモニックス」と呼ばれる、その何倍かの周波数の音がいくつも重なって程よいバランスでブレンドされることで楽器などの豊かな音を出します。電気信号でも同じで、四角い波形を実現するには「基本周波数」を主成分として、その整数倍いくつかのの正弦波が「一定の割合」で重なり合わさる必要があります。これをフーリエ級数と呼びますが、ここは難しいので結果を中心に。
「四角くなるため」には、基本周波数の3倍の周波数の正弦波が基本周波数の1/3の大きさで、5倍の周波数が1/5の大きさ、7倍の周波数が1/7の・・・・と、比率は小さくなりますが「基本周波数の奇数倍」の成分がずっと重なっていくことでできます(図4)。この高調波によって、デジタル信号の「シュッと」した形が形成されているのです。特に、信号が立ち上がる所=0~1(逆も)に変わるときの俊敏さに関わります。ただし、実態としては昨今の信号の高速化で高調波の維持は「ギブアップ」気味になっており、ナイキスト+αくらいまでの伝送特性の担保で伝送品質を維持しようという動きが主流になってきています。
さて、基本周波数より「高い」周波数について説明しましたので、次は「遅い」周波数について説明していきます。
ここまでで、デジタル信号の基本周波数であるナイキスト周波数と、それより高い周波数として方形波/矩形波となるためのナイキスト周波数の「高調波」成分について説明しました。それでは、ナイキスト周波数より遅い周波数はどうなっているのでしょうか?
実際のデジタル信号は、ずっと0と1を交互に繰り返しているわけではなく、0や1がしばらく続くこともあります。つまりずっとカリカリ忙しいわけではなく、信号の少し動きがゆったりするときがあります。少し極端な例になりますが、0と1が交互にずっと続く場合から、それぞれ2回づつ、3回づつと続いたものが繰り返すパターンに変わる場合を見てみましょう(図5)。直感的に理解いただけると思いますが、それぞれナイキストの1/2、1/3の周波数のものを主成分としています。0や1がさらに続けば、主成分はより低周波になります。また、これらの「忙しさの減った」信号も方形波/矩形波ですから、「ナイキストの1/2、1/3の上の高調波」も一定割合含んでいます。少しややこしくなってきましたが、デジタル信号はナイキスト周波数を中心に、低い所から高い所まで様々な成分の周波数の集まりによって成り立っているのです。最後にその辺りの話をさせていただきます
Webなどにもランダムなデジタル信号の周波数成分の解析をした例がいくつか出ています。それらによれば、低周波から高周波までの電力スペクトラムの積算は、概ね下記の様になっているようです。これを見ても、直流に近い所から積み上げられてナイキスト周波数よりずっと高い所まで周波数成分が分布していることがわかります。この広いレンジに対して伝送品質での寄与、EMC的観点の双方から考慮が必要ということですね。
私共の製品である「コネクタ」や、その他の伝送線路を形成する部品への高速伝送対応要求は、年々高くなってきています。例えば、変調された信号を通すような無線系の接続であれば(同軸コネクタなどが使われます)、搬送波の周波数である「非常に高い周波数」の「狭い帯域」で優れた=安定した性能を有していることを求められます。端的に言えば、周波数の要求はピンポイントになります(複数のアプリに使用されるので、より広い範囲はカバーしますが)。
一方で直接デジタル信号伝送を行う様なケースで使われるコネクタでは、先の同軸コネクタ程高い周波数での性能は要求されませんが(同じデータレートの場合)、その分低域から高域まで安定した性能を有していることが求められています。イリソ電子工業の高速伝送対応製品はこういった背景に対して、真摯な取り組みのもと開発されています。こちらに、当社の高速伝送コネクタへの様々な取り組みを掲載しています。
また本記事の後編として、より掘り下げた内容の「周波数ひずみとコーディング」をご用意しております。ぜひご覧ください。