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電流を複数ピンに分流した場合、何A流せるか? Divert current to multiple pins

コネクタの定格電流と分流

コネクタには定格電流という規定があります。当社の場合、「全極通電とした場合に、30℃上昇となる電流値」を定格電流としています。通電時の温度上昇は製品の定格温度(許容温度)に含みますので、定格より30℃低い温度環境なら、全極に目いっぱいの電流を流せることになります。これは競合他社様も概ね同様です。周辺温度が低いなどの特定環境下で異なった独自の定格電流を設けているケースも見られますが、UL規格等の整合もあり、ほとんどの製品で30℃上昇となる電流値を定格と定めています。

しかしこれが分流になると、各メーカーで対応が異なるようです。たとえば、「このコネクタ定格1.0Aだけど、3ピン使って3.0A流したい」という要望に、どう応えるか。当社 は、そのようなケースではお客様と協議をしたうえで、多くの場合は分流を推奨させていただきます。一方で、分流のばらつきの影響を考えて「推奨しない」とされているメーカー様もいらっしゃいます。なぜそのような違いがあるのか?これはコネクタの種類にも依存します。

今回の記事では、通電によるコネクタ発熱から大電流への対応にも触れながら、分流についても少し考察をしてみたいと思います。

コネクタが発熱するのはなぜか?

オームの法則

電気抵抗=Rに電流=Iが流れると、その前後で電圧が発生します。そして電気抵抗では「電力=W」が消費されます。そのそれぞれの関係がオームの法則で、下に示した図のようになります 。
こちらの内容は、コラム「「抵抗損失」と「誘電損失」信号が熱に変わって小さくなる?」でも説明していますので、ご参照ください。

では、この消費されたWはどこに行ってしまうかというと、熱に変わるのです。電気を通す機器や部品、たとえば電源ケーブル等が熱をもつのはこの現象によります。すなわち、電流を流し込まれた「抵抗=R」が熱源となるのです。すべての金属は電気抵抗をもちますので、電気を流すコネクタの端子もその例外ではなく、通電時の熱源となります。
この熱をできるだけ小さくするには、同じ電流を流したときのWを小さくすれば良いので、Rが小さい方が良いと考えられます。それでは、R=電気抵抗について少し考えてみましょう。

円柱導体の電気抵抗は、金属種類・長さ・断面積で決まる

R=電気抵抗を考えるのに、まずはシンプルなモデルから考えてみます。
金属は、各材料毎に電気、電流の流れにくさを表す体積交遊抵抗値という値をもちます。電流の流れやすさを示す導電率は、この逆数に比例します。そして円柱の導体の場合、図の電気抵抗値をもちます。

電気抵抗値=R=ρ×L/S

ここで少しイメージの話を、道路にたとえて説明します。車を運転しているとき、路面がスムーズな方が疲れません。この路面の凸凹具合を示すのが耐性固有抵抗値=ρになります。また道路は広い方がストレスなく運転できます。電流も、道路の幅にあたる導体の断面積が広い方が、消耗は少ないのです。長い距離を運転するとやはり疲れますので、距離=Lも大きい方が電気は消耗します。道路以外にも水道のホースやストローをイメージしていただいても良いかと思います。物が通るときの「抵抗」というのは、万事共通のところがあるのです。

さて、この式からすれば「抵抗値が低い材質で、広い断面積をもち、短い導体」が電気抵抗値が低いことになります。I2×Rで示される発熱に使われるエネルギーも低くできるはずです。ならば、温度上昇もそのままの流れで考えられそうですが、ほんの少しだけ状況が複雑になってきますので、次で考えてみます。

円柱導体での発熱

こちらの図は、電流が通りながら円柱導体が発熱していくイメージ図です。電気抵抗のある円柱導体を電流が流れながら、長さ方向にずっと発熱を続けていきます。

ここで導体を短くすると抵抗値が下がるので、少し短くして見ましょう。温度上昇は抑えられるのか?

これで抵抗値は下がります。ただあくまでも感覚的な話ですが、このイメージ図からするとあまり熱さは変わらなそうな印象を受けます。導体を短くしたことで抵抗値は下がり、総発熱量も下がっているのですが、「温度を上昇させる対象範囲」も小さくなってしまっているので、結果としてこのケースでは温度上昇は変わらないのです。

イメージの話を、少ししてみましょう。

真冬 に、6畳一間を暖かく快適に過ごせる暖房器具を別の空間に持ち込んだらどうなるでしょうか?12畳の部屋で使ってみたら、おそらく少し寒いでしょう。もし体育館などのだだっ広い空間に持ち込んだら、きっと機能しません。本当に暖房機の近く以外は全く暖まってきませんね。

このように、発熱の量が同じでも温度を上昇させる対象が大きくなれば効果は下がります。逆に円柱導体の例のように、短くすることで抵抗値を下げても限定された箇所での温度上昇は変わらないのです。
ということは、材質の低効率と導体の断面積だけを見れば温度上昇が決まりそうですが、例外はないのでしょうか?依存しない例とする例を挙げながら少し考えてみましょう。

長さが影響しない場合とする場合 電線の許容電流量と電熱線

ここまで円柱導体をモデルに説明していますので、その延長線で電線の場合を見てみます。
電線には許容電流量という定義があり、特に「余裕を持った空間に1本配置される場合」の許容電流量は、シンプルな現象なので計算式もしっかりしています。式そのものは対数が含まれており、やや複雑ですが(各電線メーカ様のサイト等に掲示されていますので興味がある方は検索してみてください)、基本的な考え方は概ね下記の通りです(実際の式では、ダイレクトの許容電流量が算出できる形に変形されてます)。

・単位長さ辺りの現象から計算し、長いときは同じ現象がずっと続くため長さに依存せず一義的に決める
・導体に電流が流れたときの発熱量を計算する
・電線表面までの熱の流れ=伝熱を計算する
・電線表面からの放熱を計算する。
・これにより内部にこもる熱を算出し、一番温度が上昇する部位である導体の温度上昇を算出する。
・電線の周辺温度と定格温度(最大許容温度)も差分が、先に算出した温度上昇と等しくなるような電流値を許容温度とする。

前項の説明と重複しますが、電線が長いときは発熱総量も大きくなりますが、その分広い区間で温度上昇をさせるため、長さに依存しないということになります。つまり、ゆったりと余裕をもって配線された電線に関しては、長さによって抵抗値は上がるけれども温度上昇には依存しないということです。

では、ゆったりと余裕をもっていない場合は、どうなるでしょうか? たとえば、ぐちゃっとまとまった電線では狭い空間により大きな熱源が存在するようになりますので、電線の長さが温度上昇に依存しそうです(熱が逃げにくくなるという要素ももちろんあるのですが)。そういったものの中で最たるものとして、電熱線があります。

電熱線はあえて抵抗値の高いニクロム線を使いコイル状にすることで、長く抵抗値の高い導体を短い空間に押し込めて熱源として使うものです。このように長いものを狭い空間に押し込めるような構成では、導体の長さも温度上昇に効いてきます。

まとめると温度上昇に寄与しそうなのは、一定区間内の電気抵抗値=金属材質と断面積に加え状態によっては導体長さも、ということになります。それではコネクタの場合はどうでしょうか?

コネクタの端子形状と発熱・温度上昇について

コネクタの導体である端子は、円柱導体のようにシンプルな構造ではありません。機能や機構に応じて、金属を延ばしたり、絞ったり、抜いたりと複雑な形状にしていますし、嵌合相手との接触もありますので一筋縄ではいかないのです。それでも、基本的な考え方は前項までにたどってきた内容が踏襲できます。

コネクタの端子では、熱源となりやすい部分がいくつかありますが、そのうち2つの例を見てみたいと思います。

上に示したのはフローティングコネクタの断面を取り、端子の様子を示したものです。
熱源となりやすい1つ目は、フローティングの可動用のバネ部です。先ほどの電熱線の例で示したように、長い導体が狭い範囲に収まっています。また、バネの力は適正に保たねばならないために、あまり太くできない、つまり断面積を大きく取れないために、どうしても高い抵抗値になりがちなのです。

2つ目は接点部です。端子同士が接触する部分は一体の金属部よりどうしても電流が流れにくく、つまり電気抵抗値が高くなるため、ここが発熱源となりやすいのです。先の説明で導体を道路や水道ホースに例えましたが、高速道路のジャンクションやホースの継ぎ目ではどうしても流れが停滞するのと似たようなイメージですね。

逆の言い方をすれば、この2カ所の構造は大電流コネクタでの工夫のしどころとなります。たとえば、下 に示した図は当社の小型大電流(15A)のフローティングコネクタである10122シリーズの端子の図です。この製品では独自の4点接点構造を持ち、可動バネを部分的に分割することで発熱の抑制と機械特性の両立を図っています。

また、現在新たな可動バネ機構を用いた30A タイプも開発中です。さて、それでは少し遠回りしましたが、冒頭に話した分流の話に進みたいと思います。

電流はどのように分流されるか? 抵抗値のばらつき

はじめにの項で触れた「このコネクタ定格1.0Aだけど、3ピン使って3.0A流したい」というケースを例に考えてみます。
コネクタを含む分流区間で電気抵抗値が全く同じであれば、3.0Aの電流は各ピンに1.0Aづつ均等に分流されます。それでは、コネクタ部の抵抗にばらつきがあった場合はどうなるのか、3つの線路のうち一つΔRだけ抵抗が高いケースを見てみます。

途中の計算は省きますが、図に示したように簡単な回路計算で算出できます。最終的に各端子に流れる電流を見てみましょう。抵抗ばらつきがなく=Rである経路の電流I1とI3は双方(1+Δ)/(1+2/3Δ) Aになります。Δが正の値であればΔ>2/3Δで分子が分母より大きくなりますので、I1=I3>1.0Aと定格電流値を超えます。一方で抵抗にばらつきが生じた線路の電流I2は1/(1+2/3Δ) Aとなり分母が分子より大きくなるので、定格の1.0Aより小さくなります。尚、検算いただくと分かるかと思いますが3つの電流の和は、もちろん3.0Aになります。

電流は流れやすい方に偏る性質をもちます。これは電流でなくても、水流やエアフローでも同じですね。よって抵抗の高いI2から、ちょっとした流れにくさの分だけ抵抗の低い経路のI1、I3に振り分けられた結果、このような電流配分になるのです。
ところで、I1とI3は定格電流値を超えてしまいました。これは使用に耐えないということなのでしょうか? 最初に戻って、定格電流の定義は「全極通電とした場合に、30℃上昇となる電流値」としていました。では温度上昇に関わる熱源たる抵抗損失がどうなっているのかを、全極定格電流通電との比較で見てみましょう。

分流による損失の変化① 流れるに任せた方が総損失が少ない

発熱に関わる抵抗損失の比較をするために、次のようなモデルを考えてみます。定格電流の定義に沿って3ピンに独立してそれぞれ1.0Aの電流が供給される場合です。

抵抗の前後の電位差V=IRが異なるので、一つのパワーを分岐して送付する仕様としては少しあり得ないモデルで、どちらかというと3つの独立したパワー供給というイメージでしょうか。それぞれの抵抗で消費される電力はW=I2×抵抗値で、電流Iが1.0Aですから抵抗値と等しくなります。3つ合わせると(3+Δ)Rとなります。

一方で、前のパラグラフで見た分流モデルの3つの抵抗での消費電力積算は、電圧値に総電流である3.0Aをかけたものになりますから、(1+Δ)/(1+2/3Δ)×3となります。

それぞれの総電力をΔが負の値の場合、すなわち一つだけ抵抗値が下がるケースも含めて「3つの抵抗がばらつかず、全部Rである場合」の電力との比較でグラフにしてみました。

抵抗にばらつきがないときの総消費電力との比較

オレンジのラインが抵抗値にばらつきがあるときの分流モデルの抵抗部での総消費電力、青のラインがそのコネクタに独立1.0Aを全極通電した場合です。どちらのラインもΔが正の場合、合成抵抗値が大きくなるためばらつきがないときより消費電力が高くなり、100%を超えてきます。しかしながら、ここで注目すべきはオレンジのラインが、仕様通りの1.0A全極通電より全域で低くなっている点です。同じ総通電量が3.0Aで何故この違いが生じるのでしょうか?

前述のとおり、電流は流れやすい方に偏る性質をもちます。きっちり3等分して、流れにくいところにも無理に等量流すよりも、電流が流れたいように分流させてあげた方が、結果として効率の良い流れ方になります。そのため、総消費電力が低くなるのです。

この結果から、抵抗値にばらつきが生じたコネクタでは分流時に厳密には定格電流値を超えてしまうピンがあるが、定格電流の規定の根拠となっている温度上昇という点では規定している仕様目いっぱいの使用よりも低くなりそうだなと感じていただけると思います。では、もっと局所的な発熱に関してはどうでしょうか? 2つのモデルで一番消費電力が高くなる個別ピンを見てみましょう。

分流による損失の変化② 個別ピンの発熱は?

分流モデルでは抵抗前後の電圧値が等しいので「電流が一番流れているピン」が、独立電流供給では電流値が同じなので「抵抗値が一番高いピン」が最も消費電力が高くなるため、それぞれΔが正か負かで異なるピンになります。詳細は、次のグラフの凡例を参照ください。

抵抗にばらつきがないときの1ピンあたりの電力との比較

このように、個別ピンの消費電力で見た場合にも、全域でオレンジのラインが青のラインを下回る結果となります。局所的な発熱の元となる個別ピンの消費電力で見ても、分流時の方が仕様で規定している条件よりも低いということになります。実装不備や異物の噛みこみ等不具合による場合は全く別の話として(そもそも単独通電でもダメですね)、ここまでの確認結果からすれば製品の仕様内でコネクタの抵抗値がばらつく場合には、分流は問題ないと思われます。
しかし、問題となるケースはないのでしょうか? 次にコネクタ以外の要因で、電流の分流配分が変わってしまうケースを考えてみたいと思います。

なお、蛇足となりますが異物の噛みこみに関しては、2点接点構造という技術をご用意していますので、そちらも見ていただけると幸いです。

コネクタに至るまでの配線の影響

電源、コネクタ、供給対象に至るまでに、→間には通常、配線素材が含まれます。たとえば、電線や基板のトレースがそれにあたります。電流を分流する場合にこれらが介在するわけですが、これが接続距離であったり、基板レイアウトでのルーティンであったり、分岐後の配線がコネクタの抵抗値よりずっと大きな値をもつ場合、電流の分配がコネクタの抵抗値に依存しなくなります。

つまり、この配線の抵抗が大きくかつばらつきをもった場合はコネクタの状態に依存せず、各ピンに偏った電流が配分されてしまうことになります。

ここで、少し極端な例ですが下記のような配線の抵抗にばらつきがあるモデルを考えてみます。

ここで各抵抗で消費される電力は、きっちり1.0Aづつ流れるときより、それぞれI12, I22, I32倍になります。3つ分の抵抗で消費される電力は(3+4Δ+2Δ2)/{3×(1+2/3Δ)2}倍です。これもまたコネクタでの総消費電力と一番消費の大きなピンの消費電力をグラフで見てみましょう(これまでとグラフ表記が少し違うのでご注意ください)。

コネクタ部での消費電力、電流が均一な場合からの増加比率

前提の段階で近似もしていますので、Δが負でかつ大きいときは現実には起こりにくい状態も含みますが、3ピンの合計値でも単独ピンで見ても全域で配線が均一な状態より高くなっています。特に単独ピンで見ると、電流の大きく配分されてしまったところの電力上昇が大きく確認されます。つまり高電流を定格電流以下に分割してコネクタを通じて送る場合、コネクタに至るまで及びそこから先の配線の状態によって、意図せぬ発熱の可能性があるということです。

おそらく同業他社様で「分割を推奨しない」とされているケースは、こういう場合を想定されているのではないかと思います。また、コネクタの種類という見方をした場合には、電線対基板コネクタや電線対電線コネクタなど電線を介する接続では、こういった現象が顕著になる可能性があります。当社の場合「お客様と協議をしたうえで、多くの場合は分流を推奨」と最初に説明しましたが、この協議の中でこうしたリスクがないかの確認をさせていただいているのです。

結論としては配線部分の抵抗値が安定して等分されている状態であれば、定格×配分ピン数までの電流の通電は可能ということになりますが、配線部バランスに懸念がある時は相応の余裕を持った配分が必要となります。もう一つ、これまでの話とは少し違う点ですが、電流を分岐している場合、たとえば1つの接続が完全に壊れてしまった場合等に、電流を分岐しているため完全に流れが止まらず「不具合の発生」の知覚が遅れるというリスクもございます。そういった点もふまえて様々なご提案・ご協議が可能ですので、当社コネクタにてご検討の際は、当社営業員にご相談いただくか、WEBサイト経由でお問い合わせください。

最後に

電子機器の狭小化の流れもあり、「基板レイアウト上低電力の信号と電源を同じコネクタで流したい。でも大きなものは使えない。」というケースは、以前より増えてきているように感じています。そうした場合、定格電流値の小さなコネクタをいかに使いこなすかという点で、苦労されているケースも多々あるでしょう、また、分流についての各メーカーの見解も少しずつ違っているように見受けられましたので、このテーマを取り上げた次第です。

尚、当社では信号ライン0.5A定格の0.5mmピッチのコネクタに3.0Aの電源ライン4つを加えた10143シリーズいう基板対基板コネクタをご用意しております。ぜひ、ご確認ください。文中で紹介しました大電流フローティングコネクタ10122シリーズもよろしくお願いいたします。