タイトルの趣旨に沿った説明は、当WEBサイトの「コネクタとは」でも掲載しております。(コネクタの成り立ちからその進化、またコネクタのFeatureに関する解説を随時追加公開していますのでぜひご覧ください。)
このコラムでは「コネクタとは」の記事ではサラッと流している誕生に至るまでの周辺のトリビア的な話から、コネクタ材料であるプラスチックと金属について説明していきたいと思います。
冬場のピリッと来る静電気に、「ゴロゴロピカーッ!」の雷。デンキウナギ、デンキナマズやシビレエイなど体内で発電をする魚類もいます。電気は人類の誕生以前から地球上にあるものです。このわけのわからないもの = 現象たちを、自分たちの生活の役に立つように何とか利用できないかと頑張ってきたのが人類の英知です。
人類で、最初に電気に興味を持ったのは古代ギリシャの賢者たちと言われています。おそらくはもっと前にも「面白いな」と感じた人はいたのでしょうが、記録に残されているのは琥珀に埃が付きやすいことに注目したのが始まりだとか。当時は静電気ではなく同じ頃に発見された磁石との混同があったようです。それが紀元前ですね。
そこから知的好奇心による実験と検証、応用への執念で16世紀最後の年には電気の存在が定義付けられました。17世紀には摩擦で電気を起こして貯めておく装置が発明され、雷と静電気が同じ電気であるとわかったのは18世紀のようです。同じく18世紀には避雷針が発明されたり、平賀源内がエレキテルを作ったりします。18世紀終盤にはボルタ電池が発明され、19世紀には電気で動かすモータや電気を生む発電機、電気を信号として送る電信機、そして灯りをともす電球等が発明されていきます。
ここで、このような技術を確立していく過程で絶対に必要だったことがあります。それは「電気をつなぐ」、すなわち「電気を送ったり受けたりする」ことです。ここで重要になってくるのはコネクタにとっては大先輩にあたる電線の発明です。スティーヴン・グレイという方が1670~1730年頃まで数々の実験を重ね、導通による送電や絶縁の必要性まで明確にしたようです。本業は染物屋さんのアマチュア学者らしいですね。こんなにすごいことを成し遂げた人なのに、あまり知られてない奥ゆかしさも縁の下の力持ちである電線らしいです。電球(トーマス・エジソン発明)やモータ(マイケル・ファラディ発明)の方が「役に立っていますよ!」という感じがわかりやすいですが、電線やコネクタは控えめなのです・・・・。もちろん、電球やモータはものすごく重要です! ただ、電球もモータも電気がつながれて初めて活きるのですよね。
さて「コネクタとは」でも説明していますが、コネクタが発明されたのは第二次世界大戦中と言わています。
つまり電線は電気をつなぐということにおいて、200年以上のやはり大先輩ということになります。そこで「導通させ、絶縁する」という歴史を知るために、まずは電線の発明の話から始めて、コネクタの誕生まで説明していきます。
スティーヴン・グレイが最初に実験で披露した電線の元となったものは湿った麻紐を乾いた絹糸で吊るしたものだったようです。
想像するに、図1のようなイメージでしょうか。
図1 最初の送電線のイメージ
図2 導体と絶縁体の発明
この時、乾いた絹糸の代わりに金属で吊るすと送電出来なくなったそうです。
現代の知識で考えると当たり前ですが、金属で吊るすとそちらから電気は「漏電」してしまいますね。
そもそも濡れた麻紐より電気を通すので、電気は逃げてしまいます。
ここから送電には電気を通すもの = 濡れた麻紐 = 導体と、電気を逃がさないもの = 乾いた絹糸 = 絶縁体を組み合わせることが必要と発見されたようです。
こうした現在では当たり前のことも、発見されるには先人たちの大きな努力があったんですね。
前項に記載した実験の過程で、どうやら濡れた麻紐より金属の方が送電距離を延ばせるということはすぐ判明して、19世紀中頃までは鉄製の導体が使われていたようです。製造プロセスでの滑りのため、硫化銅塗布して使われたりしたこともあって、鉄より銅の方が性能が良いと判明し、それ以降銅が導体の原料の主流になっていったらしいですね。
一方絶縁は、絹や紙を巻き付け、パラフィン油やコールタールをそれにしみこませたものからスタートし、ゴム引き布の活用もされたようです。続いて、タイヤでおなじみグッドイヤーによる加硫ゴムの発明(1843年)から電線への被覆設備も1860年に発明されて、ゴム絶縁の電線が登場します。
さらに1835年のセルロイドの発明から20世紀に入ってすぐには初の合成樹脂(ベークライト)の発明(1907年)がされ、プラスチックの時代の幕開けとなります。
電線の活用には、柔らかいプラスチックである可塑化プリ塩化ビニルの登場(1926年)を待つ必要がありましたが、電線の絶縁材料の主流はどんどんとプラスチックに移行していくことになります。
この導体としての銅、そして絶縁体としてのプラスチックは後のコネクタの技術を支えることになります。コネクタに使われる際の二種の材料に関しては後程また説明することにして、次に電線をつなぎ合わせる技術に触れてみたいと思います。
電気をつなげるには導体 = 金属同士を接触させる必要があります。黎明期のこの手法に関する情報は明確にはありませんが、おそらくただくっつけたり、絡めて結び付けたり、ろう付け・はんだ付け等によって接続していたはずですね。なお、金属を接続する技術であるはんだの歴史は電気の発見よりずっと古く、紀元前3000年頃にはもうメソポタミアあたりに青銅器の接続で使われていたそうです。また、ギリシャローマ時代には水道管の接続に使われていたようです。
「コネクタとは」では、コネクタのはじまりは第二次世界大戦中だと記載していますが、コンセントも含めるとそれよりも昔、エジソン・エレクトリック・カンパニー電球を各家庭にともすため電力供給を始めた19世紀の終わり頃にさかのぼります。通電した状態でも金属同士を押し付けて、繰り返し接続させようというコネクタの前身のような存在ですね。コネクタのお兄さんとも言えるスイッチも、同時期にエジソンがついでのように開発しています。
電球の発明、実用化~普及のこの時期に一気にコネクタの基本コンセプトは出来上がっていったようです。それにしても「電球を普及させるには何が必要か?」というところを徹底的に抽出し実行に移していくさまは、単に優秀な発明家というよりビジネスマンとしての凄みも感じさせられます。
その後、電線同士の中継にはんだを使わなくて済む圧着端子が発明されたのが、第二次世界大戦より少し前の1925年頃と言われています。
この技術も電線をつなぐコネクタの要素技術として重要なものですね。そして満を持して電線と電線をつなぐコネクタが使われ始めます。
一番初めのコネクタは、同時多発的に色々出たようで個体の特定が難しいのですが、円筒形の形状を持つ「丸形コネクタ」と呼ばれるもののひとつであったと推定されます。今でも使われるXLRコネクタや、N型コネクタと呼ばれる同軸ケーブルをつなぐコネクタが、この時期に軍事用途で多く実用化されていったようです。
ここで重要なのが前項でも触れた銅の活用と、プラスチックの発明になります。
電線とコネクタ双方で重要な材料・要素技術ですが、各々で要求する内容が変わってきますので、次項で説明したいと思います。
図3 第二次世界大戦中に普及した丸形コネクタ
共に電気をつなぐということを目的として発明された電線とコネクタ。電線をつなぐことから始まったコネクタにしてみれば、電線は大先輩や生みの親のような存在かもしれません。主な素材が絶縁体であるプラスチック、導体である銅や銅合金であることも共通点として挙げられます。ただし、目的が異なるため、それら素材に求める特性に違いをもたらしています。その目的の相違点は色々とありますが、大きなものを3つ挙げるとしたら下記ではないでしょうか。
概要 | 電線 | コネクタ |
---|---|---|
電気を | 遠くへ送る | その場で中継する |
形状や硬さは | 曲げるために自由度・柔軟性を持つ | その場でかっちり維持する |
通電・絶縁以外の機構は | 特にない | つなぐための機構が要る |
この違いが、使用素材への要求の違いにつながっていきます。
それでは、導体(銅・銅合金)と絶縁(プラスチック)について、それぞれ説明していきます。
コネクタと電線の目的の違いを3つ挙げましたが、それが構造や形状にどうかかわるのかを考えてみましょう。まず大きさや長さなどの形状の違い。電線は「遠くへ送る」ため、長くなります。一方のコネクタは、機能さえ果たせば大きさは問わない、といえるでしょう。(おおむね「より小さい」方が好まれます)
また、遠くへ飛ばす電線では導体の抵抗値は可能な限り低くしたいですね。もちろんコネクタでも電気抵抗は低い方が良いですが、電線とはその優先度が違ってきます。
電線は「遠くへ送る」ため引き回す必要があり、「曲げるため」の性質を持つ必要があります。そのため、曲げに対して方向性が出ないように、細長い円柱形状が基本となります。またより曲げやすくしなやかに、柔軟にするために、ロープのように細い円柱状の銅線を複数本合わせたりもします。材料は用途によっては合金・硬材・特殊素材も使用されますが、主に「腰がなく」「導電率が高い」という点でしっかり焼きなまし(アニール)をした軟銅線が好んで使われます。遠くまで引き回して、抵抗値をなるべく低くという道理にかなった形状なのです。
図4 電線の導体例
一方でコネクタにおいて、電線と最も違うのは接触するための「バネ」を持つことではないでしょうか。
コネクタは、原則としては雌雄2つのパーツに分かれます。互いの導体の接触→接続→嵌合という「つなぐための機構」を持つために、金属のバネ性を利用して押し付けるのです。
また、電線では方向性にとらわれない曲げの自由度が必要でしたが、コネクタではバネによる形状の復元(形状の維持と言っても良いかもしれません)と、嵌合を実現するためにバネ力を向ける方向性が重要になります。
そのため材質は、多少導電率が低くなってもバネ性を持つ金属が使われます。汎用的に使われるバネ材でもある銅合金のリン青銅の導電率は主なグレードで軟銅の10~15%程度です。より低抵抗でつなぐために導電率の高いコルソン銅やベリリウム銅などの高機能材も使用されますが、それでも導電率は軟銅の80%程度です。(リン青銅の約7倍という見方をすれば非常に高い導電率です)
また形状も長くなる必要がないかわりに、そのバネ性を嵌合に活かすため、さらにはその機能を「決まった方向に活用するため」に一義的には決まらない複雑な形状を取ることになります。
図5 コネクタの導体はバネ機構を持つ
図6 電線の導体の作り方
これだけ形状や材質が異なるので作り方ももちろん違ってきます。電線の導体は細く、ひたすら長く作る必要がありますので、伸線というプロセスで少しずつダイスで引き落としながらアニールしていきます。
また撚り線にするため、それらを撚り合わせる工程も次に控えます。(興味のある方は、電線メーカのサイトなども覗いてみてください)
一方でコネクタの導体 = 端子と呼ばれる部品は、主に金属の平板を切り抜いたり曲げたりしながら作っていきます。順送型という連続した加工型で、「ダッダッダッダッダ!」と端にホルダを付けたコネクタの端子が凄い勢いで出来上がってきます。
図7 順送型でのコネクタ端子の加工イメージ
このように、同じ電気をつなぐものである電線とコネクタですが、導体の形状も材質も作り方も全く別のものになってきています。なお、今回は触れていませんが、電線もコネクタも導体へのめっきを施します。その辺りにつきましては、コラム内の別記事「コネクタの端子にめっきをするのはなぜか?」で、色々説明させていただいていますので、あわせて覗いていただければ幸いです。
では次は、絶縁体/プラスチックの使い方について電線とコネクタの違いのお話をしたいと思います。
さて、プラスチックについてですが実はそれぞれの違いの重要な点は金属 = 導体での話と似ています。前項とはすこし違った表現をすると、「可塑性」と「弾性」どちらが必要かという点になるかと思います。
電線の絶縁体に使用される時のプラスチックは、電気的時には機械的にも導体を守りながらも「曲げる」という動きに追従する必要があります。電線を曲げた時に何が起こるかというと、曲げの外側と内側で「長さ」に差が生じます。すなわち右図のように曲げの外側の部分は伸びる必要があるのです。
よって、電線に使われる絶縁材料は伸びなくてはいけません。十分な伸びがないと曲げられないか、もしくは強引に曲げた時に絶縁が割れたり、破けたりしてしまいます。電線の絶縁材料にプラスチックが使用される一つの理由はプラスチックの持つ可塑性で、特に可塑性の高い材料が選ばれて使われます。あるいは、塩化ビニルなど本来は硬いものは可塑剤と呼ばれる材料を混合したうえで絶縁材料として使われるのです。
図8 電線を曲げると・・・
劣化や寿命の指針とされるのも、この柔らかさが最重要になります。もちろん他にも絶縁性能や強度的な指針も色々含まれますが、「曲げた時に破れない柔らかさ」は劣化によって失われやすいこともあって重視されるのです。皆さんの中にも、固くなって曲げるとポキっと割れるようになってしまった電線を見たことがある人も居るんじゃないでしょうか?
一方のコネクタは、嵌合という機能を持つためにきっちりと形状を維持しなければいけません。おのずと、ある程度硬い材料を使用する必要があります。劣化や寿命に対する指針も同様で、いかに形状を維持するかということが重要となります。長期間の使用だけではなく、はんだ付けの実装プロセス等の短期の耐熱性も重要になります。電線でもはんだ付けに対応した短期の耐熱性は利便性をもたらすため、高融点の素材や架橋(プラスチックの分子の結びつきを複雑にして溶けにくくする)という技術が応用されることもありますが、あくまでも溶けて流れないため、または極端に縮まないようにといった趣旨の対応です。特に高温下でのコネクタに使用される樹脂の形状維持に関しては、コラム内の別記事「高耐熱コネクタってなんだろう?」でも触れていますので、そちらもご参照いただければと思います。
さて、形状を維持するためにある程度硬い材料を使用する必要があると記載しましたが、樹脂の曲げ弾性が必要なケースもあります。
例えば嵌合時のクリック感や、クリック音を発生させる機構を付ける場合、図のように一旦凸部が相手方に乗り上げ、樹脂は瞬間的に反った状態で進行し、所定位置まで来た時に「パチッ」と、凹部にたたきつけて収まるようにします。また、嵌合した後はきっちり元の形状に戻る必要があります。
つまり、曲げた時にずっとそのままである可塑性ではなく、戻ろうとする弾性 = バネ弾性がプラスチックに求められます。
図9 クリック感・音のある嵌合イメージ
他にもロックや部品の固定機構等、コネクタにおいてはプラスチックにバネ弾性を求めるケースは多々あります。電線との違いは、やはり導体の場合と似通ってきますね。このような違いがあるので、製造方法や使用される材質は当然違ってきます。
長物を作る電線の絶縁では「押出成型」という製法が取られます。
溶かした樹脂を、クロスヘッドと呼ばれる装置で導体にかぶせて適切なサイズの穴が開いたダイスから絞り出します。これを、付与した樹脂の量と欲しい電線の太さのマッチングが取れるスピードで引っ張り、水槽で冷やしてひたすら長い電線を作っていきます。一方のコネクタの樹脂部品はほとんど「射出成型」という方法で製造されます。(まれに切削等の他の製法で造られるものもありますが)
必要な形状の「ネガ」形状の金型に樹脂を注入し、冷やし固めます。それを取り出した後、ランナーと呼ばれる樹脂経路に出来る不要部分をカットして(プラモデルのような要領です)仕上げます。
シンプルな形状で長い電線、小さくてすこし複雑な形状を持つコネクタ、それぞれに適した成形手法ですね。
図10 押出成型と射出成型型
電線とコネクタでは使われる材料も異なってきます。
電線の場合大きく分けてP.V.C系、ポリオオレフィン系、フッ素樹脂系のものが主流です。他にも各種ウレタンベースのものやナイロン/ポリアミド系のものなど色々ありますが、先に上げた3分類が主流かと思います。特徴的なのはフッ素樹脂は別として、さまざまなレシピで配合した材料を使用することです。配合されるものは石化の樹脂系の材料のみに留まらず、金属系(金属酸化物や水酸化物等)、鉱物系など多岐にわたります。また、各電線メーカが独自の配合で絶縁材料を開発することが珍しくなく、特に大きな会社ではほとんどが実施しています。
コネクタでは、歴史の古いナイロンに加えて、いわゆるエンプラ(エンジニアリングプラスチック)やスーパーエンプラと呼ばれるものからコネクタに適したものが使われることが多いです。主に使われるのはナイロン系を除けばPBT、LCPおよびPPSの3種がメインかと思います(ナイロン系もグレードによってエンプラ/スーパーエンプラに分類されます)。
当社ではどのタイプも使用していますが、最近ではリフロー対応のコネクタが増えたこともあり、LCPの比率が高くなってきています。これらコネクタ用のプラスチックは、各樹脂メーカ様か様々なグレードのものが発売されています。電線の素材のようにコネクタメーカが独自に開発したり配合したりする例は、実は寡聞にして聞いたことがありません。印象論ですが、電線メーカと比してコネクタメーカの方がより「使いこなす生産技術の確立」に特化しており、性能のみならず部品の作りやすさや安定性から材料を選択しているのかもしれません。不思議なもので、まったく同じグレードの素材を使っても出来上がりの品質や寸法精度はメーカによって大きく変わっています。
図11 電線とコネクタで使われるプラスチック材料の比較
なお、各材料の特徴は、材料メーカ様のサイト等を参考いただいた方が確実なので、ここでの説明は省かせていただきます。(また別の機会に説明するかもしれませんが)
今回は電気をつなぐという行為の誕生のお話から、その道の大先輩である電線を比較対象としてコネクタに使われる導体 = 金属と絶縁体 = プラスチックに関して簡単な傾向の説明をさせていただきました。
材料に関しての説明は、今回本当にさわりだけなのでより詳しく説明する機会がまたあるかもしれません。
あるいは、今回のコラムを読んでいただいて、気になって様々な材料について調べられる方がもしいらっしゃるようでしたら、それは大変嬉しいことだと思います。好奇心を持って日々を送ってまいりましょう。