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高耐熱コネクタってなんだろう?What is a high heat resistant connector?

高耐熱コネクタってなに?

“高耐熱コネクタ”でWEB検索をすると、耐熱温度として80℃くらいのものから、果ては680℃対応と謡われているものまで様々な製品が掲示され、何か具体的に期待する製品を探されている方はちょっと混乱してしまうかもしれません。「じゃあ高耐熱コネクタって何なの?」というお話を、今回はしていきたいと思っています。あいまいな言葉の定義の中、何をもって高耐熱としているのか、用途、技術的な課題とアプローチ、特殊な事例などを交えて説明させていただきます。

高○○ってHigher Than ×××、じゃあ×××はなに?

コネクタに限った話ではないですが、高耐熱以外にも高速伝送や高電流等の”高”が冠につく製品は、その高さに関する定義が割とあいまいです。言葉の送り手と受け手の間に認識の差があると、どうも会話が噛み合わないなんてこともあります。当社の営業活動においても、お客様のご要望をきっちり理解しないと、的外れなご提案をしてしまったりしますので各営業員は初動でのやりとりには注意を払っています・・・いるはずですが、それでもすぐに誤解は解けるにしてもちょっとした行き違いは時々起こっているようです。

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ケース①

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ケース②

「高」の解釈による行き違い事例

なぜこのような行き違いが生じるのかというと、それぞれのマーケット、製品、環境によって何をもって高いかが異なっているためですね。たとえば同じ製品でも、当社の高耐熱や高速伝送とした製品を車載市場と通信機市場に持ち込んだ場合には受けとっていただき方が違いますし、同じ車載市場でもアプリが異なれば高電流・高電圧等の受け取られ方が違います。「×××よりは」あるいは「×××にしては」「高○○」という、絶対的な高さ「High」ではなく「Higher Than」が「高の冠」と結びついているために起こる行き違いです。

たとえば医療診断的なもの、血圧などでしたら診療基準が明確にあって「ここから高血圧」となります。一方で身長が178cmの人は日本に居たら、まずまず高身長と言われるでしょう。しかしながらオランダに行ったら低身長と言われてもおかしくなさそうです。あるいは野球界に行って「178cmの長身から繰り出される角度のある直球!」と言われてもピンときません。

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環境で変わる身長の扱い

本サイトの技術情報内にある「コネクタとは」でも少しだけ説明させていただいていますが、コネクタの用途が多様化したことによって、同じようなことがコネクタの高耐熱でも起こっているのです。そのため前提を取っ払ってしまうと、冒頭のシンプルなWEB検索等では、あれもこれもと混乱するようなラインナップが同時に登場してしまうのです。具体的な目的で、使えそうな部品をお探しの方には面倒な話かもしれませんが、「コネクタ 高耐熱 XX接続」等とキーワードを増やして絞り込んだ検索をしていただいた方が目的にたどり着きやすくなります。

コネクタの「系統」による高耐熱の違い

少し具体的に、コネクタの種類による「高耐熱」の意味の違いを見てみましょう。それぞれのコネクタ種類によって使用される材料の系統やサイズ感も異なってきます。特に高耐熱なものとしてはヒータや加熱炉の中での接続に使われるような200~数百℃の耐熱をもつ品種があり、加えてその近辺のもう少し温度が下がったところでも150℃定格のワイヤ接続用のコネクタなどがあり、こちらもほぼ高耐熱コネクタと呼称されます。前者では、他のコネクタではあまり使われないセラミック系の絶縁物であったり、プラスチック系のものでもPEEK等スーパーエンプラの中でも耐熱・強度の強い材料が使われたりします。金属部品もガチっとした構成のステンレスなどだったりします。

一方で、汎用機内配線用のコネクタでは、60℃定格がベースとなり、80℃/105℃のものは高耐熱コネクタと呼ばれます。こちらは通称「ナイロンコネクタ」等とも呼ばれる、旧来の材料が絶縁体のベースとなることが多いですね。ここまで見ただけでも、コネクタの種類によって高耐熱と温度がかなり異なります。

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コネクタ種類による高耐熱の違い

当社が主に取り扱っているのは、機器内で使用される基板接続用のコネクタになります。これらのコネクタでは、通常80℃定格が汎用として取り扱われています。105℃定格のものから高耐熱と呼称されることがありますが、現在では耐熱要求がより高いものへシフトしてきている背景もあり、当社では特に125℃対応品を「高耐熱コネクタ」として扱っています。

ちなみに、この手のコネクタの耐熱要求の向上は、車載部品などの高温環境で回路を構成する機会が増えたことや、電子部品の高機能化や高速化による発熱の上昇によるものです。将来的にはさらに高い温度定格のものが要求されるかもしれません。このように時代や周辺機器・部品技術の変化に伴って、コネクタの種類の中でこの狭い製品群内に限定して見ても、高耐熱の定義が変わってきています。尚、絶縁材料は汎用グレードではPBT等、高耐熱ではLCPやPPS他、様々な樹脂が使われます。金属材も特にバネ性が問われるところでは汎用とは異なる合金材が使用されますが、こちらは後述させていただきます。

ここからのお話は、主に「機器内で使用される基板接続用のコネクタ」に関して進めていきますが、その他のコネクタでも共通の部分も多い内容です。

短期耐熱と連続使用温度

高耐熱コネクタのいった場合、通常は連続使用温度が高いものを指し、定格温度はこちらに基づきます。一方では、実装プロセス等で一過性の短時間ながら、使用温度よりずっと高い温度にさらされることもあり、その面での耐熱性を気にされるケースも多いのではないかと思います。長期・短期双方の耐性を確認するために、実際の製品評価としては、次のような環境負荷試験の後にコネクタがその機能・性能を満たしていることを確認します。

 短期耐熱:所定のリフロー条件等 (180℃×120sec→250℃で短時間×60sec を2サイクル等)
 長期耐熱:定格温度(最大許容温度/連続使用温度)×所定の時間 (125℃定格、車載機器では125℃×1000h)

一方で、そういった環境負荷の結果、考慮すべき大まかな課題は何でしょうか?短期耐熱と長期耐熱(連続使用)時における、コネクタ大まかな課題を金属部品と絶縁部品に分けてまとめてみました。

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コネクタで耐熱を考慮すべき大まかな課題

想像しやすい課題が多いのではないかと思いますが、材料部品で見た場合の耐熱に関するポイントは、概ね短期・長期とも

・熱によって溶ける・軟化する (ex.プラスチック部品の変形・溶解やメッキの溶解)
・成形/形成時のひずみが取れる (ex.金属のバネ特性の劣化やプラスチック材料の反り)
・化学反応の活性化エネルギーは温度に依存して高くなる (ex.金属の酸化やプラスチックの脆化)

の3種に集約されます。この中で、3つ目の化学反応の温度依存に関しては、その加速試験方法に関して本サイトの用語集アレニウスプロットでも少し触れていますので、興味のある方はご覧ください。ただし、この問題は先に掲げた長期耐熱の中では、現在の当社製品群の材質構成では顕在化するのが他の問題よりずっと遅いので、製品開発時の課題として挙がってくることは稀です。同じプラスチック部品を使用していても、耐熱の定義も電線等の柔軟な樹脂を動かすような製品ではこちらの課題がかなり重要なようですが(電線では寿命の定義も大きく違います)。

加えて、一つ目のうち、メッキの溶解に関する課題もほとんどありません。ですので、ここからはその他の項目を説明しながら、高耐熱コネクタとはどういうものなのか、どういった視点での開発・設計が必要なのかを見て行きましょう。

樹脂の変形

高温下におけるコネクタの抱える課題について、まずは樹脂の変形から見ていきましょう。最もシンプルに思いつくのは次のような問題でしょうか。

・短期:溶けや軟化による変形

材料の融点・軟化点が、リフロー等のプロセス温度よりずっと低い場合に溶けてしまう問題です。最低限材料選択で必要となる点ですね。これは「熱によって溶ける・軟化する」に該当します。もう一つ先の課題としては「成形/形成時のひずみが取れる」にあたる、次のものがあります。

・短期:成型時のひずみの解放

耐熱以前の問題として、通常試作の段階でバグだしされる不具合ですので、コネクタを使われる方の目に触れる機会はあまりないのかもしれませんが、プロセス投入前から樹脂部品に反りなどの変形が生じていることがあります。これは成型時に溶融し流動する樹脂の場所によっての応力の偏りや、成形に用いられる金型の温度の箇所による差、樹脂の熱収縮特性等によって発生します。その延長線上にこの課題があります。出来栄えがしっかりしている状態でも、このような変形の元となる樹脂の中の「ひずみ」が少しだけ閉じ込められているのです。リフローなどのプロセスで温度が上昇すると、樹脂はこのことを思い出そうとします。そして楽な状態に戻ろうとしてしまうのです。たとえば下記のように樹脂がひずみを解消しようとすることで反ってしまい、リードフレーム部のコプラナリティが消失し、基板から足が浮いてしまう不具合などが発生したりします。

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コプラナリティの消失

こういった問題は、先に書いた通り成形条件での偏りと樹脂のそもそももつ特性が影響します。製品の出来栄えに加えて、たとえばリフロー対応のコネクタではこの「思い出す」という部分まで考慮した対策が必要となります。そのためには材質の選択と、樹脂の流れまで踏み込んだ製造条件の最適化が必要です。CAEによる流動解析等も応用しますし、経験や実績によるノウハウがかなり重要な部分です。これらは多くのデザインルールとして、各コネクタメーカで蓄積されています。製造条件というと生産技術的な部分だけに目が行きそうですが、それ以前の前提条件として樹脂部品の形状が最適な製造条件を実現しうるものでなくてはいけません。形状を決めた時点で勝敗は決しているという感じでしょうか?たとえばコネクタを手に取ってみると、機能上は必要なさそうなくぼみだったり、テーパだったり、Rの取り方だったりがされていたりすると思いますが、これらはほとんどそういった目的で付けられた構造なのです。

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成形に伴うひずみ対策

こういった成形に伴うひずみの対策の大まかな内容は、成形請負メーカ様等のホームページにもわかりやすく解析されていたりしますので、興味のある方は検索してみてください。

では、連続使用環境である長期では何が起こって樹脂が変形してしまうのでしょうか?プロセスに比べるとずっと低い温度ですが、考慮しなくてはいけない次の課題があります。

・長期:高温下でのクリープ疲労による変形

コネクタは原則としてバネで金属同士を押し付けあうことで、低い電気抵抗値での接続を成立させています。金属部品を支える樹脂部品でもある、ハウジングにもバネの反力という形で応力がかかります。ですので、コネクタが嵌合した状態で長期間高温下に置かれると次のような問題の発生するリスクが生じます。

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この対策としては、樹脂の選定ももちろんですがいかに樹脂の構造上弱い部分に応力がかからないかという点がポイントになります。たとえばシンプルな話、樹脂をなるべく厚くしてやればこの問題は生じにくいのですが、複雑な構造をもち、なるべく小さくしたいと希望されるコネクタ部品等においては一筋縄ではいかないことが多いのです。よって様々な構造的工夫によって、いかに限られた空間内でハウジングへの負担を少なく、必要な金属端子の接圧を得るかが高耐熱コネクタ設計のポイントの一つになります。これはバネ形状とハウジング形状双方での工夫が必要です。たとえば下記の基板対基板コネクタの構造断面図では、内側はハウジングを挟み込む構造を取り、バネの迂回によって広がる側の応力も逃がしていることを見ていただけると思います。

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ハウジングへのバネ反力の少ない構造例

金属のアニール

金属部品にも、「成形/形成時のひずみが取れる」ことで生じる高耐熱への課題があります。それが金属のアニールです。この現象は短期のプロセスでの加熱でも起こることがありますが、主には連続使用温度下での長期寿命に関わる課題です。この話は本サイト技術情報内の「コネクタとは」の「高耐熱コネクタ」「高温下での安定した接続に必要なもの」の項でも触れています。以下はその引用となります。

耐熱性において、特に重要なのは高温環境下での接触抵抗の維持です。コネクタの端子、いわゆる接続部は主に銅合金でできています。接触抵抗は端子間の接触する圧力に依存しますが、通常、ペアのコネクタの片側もしくは両側にバネ機構を持たすことで成立させています。金属は、高温化では「アニール」という軟化現象が進んでいきます。元々コネクタ端子は金属としてある程度の「ひずみ」をもつことでバネ性を維持しますが、高温化では「ひずみ」が取れていきバネ性が弱ってしまいます。この弱っていく過程において、所定の製品寿命間で一貫した適正な接圧をかつ限られた空間・コスト内で実現する必要があります。強すぎると嵌合が難しくなるため、初期の接圧はあまり強すぎないこと。一方、アニールが進んでも必要な接圧を維持すること。そのためには適切な金属材料の選択に加えて、さまざまな工夫を凝らした端子形状の設計技術が重要となります。

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金属のアニール

引用元での説明の通り、金属のアニール後にも接圧を維持しようと、いたずらに初期の接圧を上げると、コネクタの嵌合がいたずらに固くなってしまったり、メッキをガリガリ削ってしまうようになったりしてしまいます。ですから、アニールの起こりにくい材料を使用したり、「へたり難い」バネをもつ端子形状を工夫したりするのです。材質面では、従来から汎用的に広くコネクタのバネ材に使われるリン青銅に比べてコルソン銅合金ベリリウム銅といった銅合金は、アニールの起こる温度が高い、すなわち高耐熱であり当社では特にコルソン銅を高耐熱製品に使用することが多いです。端子形状は様々ですが、例外なく限られた空間の中で最適化を目指した構造になっており、高耐熱コネクタは特にそのノウハウの活かしどころとなります。

ここまでに説明してきたような課題を乗り越えた先に当社の高耐熱コネクタ=125℃定格品は成立しています。ところで高耐熱製品には副次的なメリットもあります。その説明を、次にします。

高耐熱製品を使う副次的なメリット 高耐熱だと許容電流値も上がる?

コネクタの定格温度は、通電による温度上昇を含みます。一方の定格電流/最大許容電流値は全極通電で30℃上昇する電流値で定められています。ここで、コネクタの周辺温度が95℃の場合、同じ端子と同じ放熱特性ももった105℃定格と125℃定格のコネクタではどちらがより電流を流せるでしょうか。

105℃定格では10℃上昇となる電流しか流せませんので、125℃定格のコネクタの方がより高い電流値を流せることになります。すなわち、高耐熱製品の方が高電流を流す場合にも有効なことがあるのです。

こちらの内容に関しては、もう少し詳しく本サイト用語集内の「定格電流」の詳細ページ説明してますのでご参照ください。

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さて、次が最後の項目となりますが、コネクタとは別の部材とのマッチングで高耐熱の課題となっているケースに少し触れてみます。

嵌合相手の問題: FFC接続はそれぞれの定格温度だけでは判断できない

コネクタの種類の中に、当社も扱っているFPC/FFCコネクタというものがあります。このタイプでも高耐熱品=125℃定格の製品をご用意していますが、現在嵌合相手はFPCに限定しています。一方でまだ多くはないですが、各FFCのメーカ様より125℃対応品はいくつかリリースされてはいます。すべての製品に検証を行ったわけではありませんが、現在まで評価したところ当社の製品との組み合わせで「125℃定格の接続」を保証できるFFCは見つかっていません。双方とも125℃定格なのになぜそのまま使用できないのでしょうか? 

まず一つ目として、FFCは電線の延長にあるということが挙げられます。最近はやめられたところも多いですが、以前は日本国内も主要な電線メーカ様のほとんどがFFCを製品ラインナップに揃えていました。定格温度の根拠となるのもULのAWM(Appliance Wiring Material)という機器内配線用の規格に基づくものが主流のようです。これらでは、主には長期使用における絶縁体の曲げ耐性等も健全性等が求められます。寿命として想定されている時間は車載コネクタの基準の1000時間よりずっと長いもので、その点ではより厳しいと言えるかもしれません。一方で、コネクタとの嵌合という機能面の要求はULのAWM中では求められません。では実際にコネクタと組み合わせて、たとえば高温下125℃で使い続けると何が起こるのでしょうか?

FFCではラミネート工程において、基材となる絶縁フィルムと導体を熱可塑性の接着剤で貼り付けます。コネクタとの接点部の導体の下にもこの熱可塑性接着剤が存在しています。

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FFCのコネクタとの接点部

さてコネクタとの接点部には、コネクタと嵌合状態ではコネクタの端子によってずっと局所的な応力がかかり続けます。導体下部の接着剤は熱可塑性ですので、軟化してきます。それによって「樹脂の変形」の項目で説明したようなクリープが起こり、FFCが変形することで健全な接圧を維持できないところまで導体が逃げてしまい、接触抵抗異常が発生します。過度な場合は、解け出た接着剤が導体上に回り込んで接触を阻害する場合もあります。

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高温下でのFFC接続の問題

FPCの場合は接着剤が熱硬化系のものがほとんどなので、同様の問題は発生せず、そのままコネクタと定格温度まで使用が可能なのです。FFCの接続にはコネクタが必要ですし、コネクタから見るとFPCのみではなくFFCという選択肢が増えることで、より広いアプリケーションに対応できるようになります。FFCにおけるこの課題は、我々コネクタメーカが単独で、あるいはFFCのメーカ様たちが単独で取り組むべき問題ではなく、お互いに協力しながら成立点を見つけなければいけません。コネクタとしてはより低い応力、あるいはFFCの変形に追従して接圧が維持できる接点や全く別のアプローチからの接続方法開発等、FFCメーカ様には接圧耐性を上げたFFCの開発をしていただく等が必要です。当社でもいくつかのFFCメーカ様と協業させていただいています。近いうちに125℃対応のFFC接続を実現した製品をお披露目できるかもしれません。

最後に

今回は高耐熱コネクタの各ジャンルでの違いから始まって、いくつかの技術ポイントのお話をさせていただきました。実はこの領域はノウハウの塊でwebサイト上ではなかなか突っ込んだ説明ができないので、表面的な説明にとどめています。技術的な部分は少し食い足りない内容になってしまったかもしれません。それでもこれをきっかけに、コネクタの高耐熱化に様々な取り組みがあることなどを知っていただき、興味をもつて自学される方がいらっしゃったら非常にうれしく思います。

こちらに当社の125℃対応 高耐熱コネクタを紹介していますので、是非ご覧ください。