このコラムの別記事「コネクタは戦っています!? 接続不良の要因とその対応について」でも書かせていただきましたが、コネクタの不具合を大分すると
の2つになります。
そのどちらも発生させないようにするのが我々コネクタメーカの戦いですが、とは言えその2つのうち、どちらの方がより避けるべき不具合なのでしょうか?
結論から言ってしまえば、例えば燃焼事故や深刻な装置の故障に至るのは、例外はあるにせよほとんどの場合でショート不良の方です。
今回は、先に上げたコラム「コネクタは戦っています!? 接続不良の要因とその対応について」の姉妹版として、不具合の違いや、活線挿抜/ホットプラグに使われるコネクタのポイント、「電気による破壊を避ける」という点で共通するESD対応の話などについてまとめたコラムとなります。
図1.ショート不具合のイメージ
図はあくまでもイメージです。
コンセントに埃がたまって煙や発火を招いたり、乾電池を針金やその辺の電線でショートさせてやたら熱くなるのを体感している人もいるかもしれません(私はどちらも体験しました・・・)。わかりやすい事例としては、そういったものも身近なショート系の不具合です。また、コネクタや配線に関わる家電や自動車関連のリコールニュースを閲覧すると「ああ、ショートの方が危ないのね」と感じるニュースが多いのではないかと思います。
もちろん動作中にオープンの不良に至れば、例えば装置の安全機能等の大事なものが途中で止まってしまうことによる危険もあります。
また、例外的に電流を分流しているときなどは、一部の端子が開放になって残りの端子に過電流が流れることで、異常な発熱が発生することもあります。
(コラム内別記事「電流を複数ピンに分流した場合、何A流せるか?」で最後の方に少しだけ触れています。分流と抵抗のバラつきによる発熱に関して簡単な考察をしていますので、あわせてご覧いただけると幸いです)
また電源系のアース接続不備なども事故のリスクを上げる一つですが、それでも相対的に見ればショート不良の方がより多くの危険を含んでいそうですね。特に、つないだ直後の危険に限定すればその差は顕著です。
また、コネクタに限らず電子部品の故障モードは、機器全体の故障に直結しやすいショートよりオープンモードのものの方が好まれます(選べることができないケースもありますし、壊れないのが何よりですが)。
さて、このショートモードによる不具合をもう少し拡大した範囲で、より防がなければいけないケースがあります。
それが活線挿抜への対応です。
活線挿抜、ホットスワップ、ホットプラグ等と呼ばれるものがあります。電源が入った状態で取り付け取り外し、すなわち抜き差しできるコネクタを持つ装置のことです。
回路側、装置の仕組みで抜き差しできるように対応していないといけないのですが、コネクタの構造としてそれを助けるいくつかの機構があります。
活線挿抜を成立させるための助力をコネクタが担っているケースがあるのです。
活線挿抜で身近なものとしてはUSBがあります。
この形状によって、電源およびGNDが先に嵌合し、後に信号端子が嵌合するようになります。
その時間差はゼロコンマゼロ数秒という所でありますが、これをメイティング・シークエンスと呼びます。
図2.USBメモリスティックの端末形状
図3.PCとUSBメモリスティックの電位差はないのか?
では、なぜ電源およびGNDから信号端子の順に嵌合するようになっているのでしょうか?
例えば、USBスティックをPCに刺そうとしたときのこと、図3のようなイメージを考えてください。
ここで、PCとUSBメモリスティックそれぞれの中では「電気的調和」が取れているでしょう。しかしながら、お互いの「電位」に違いがある可能性があります。機器の筐体は本来接地=絶対的な0Vレベルに落とされているのが理想ですが、現実は意外と難しいですね。また小型のメモリスティックなどはどこかに置かれている間に帯電しているかもしれません。そのようなもの同士が嵌合するときに、電位差は意図せぬ電圧を「どこかへ」与え、その電位差を解消するために電位の低い方側へ電流の流入が起こります。
メイティング・シークエケンスの考え方は、大雑把に言えば
というものです。例えばUSBのTYPE-Aコネクタをイメージした図4のケースでは、最初に筐体につながるシェル同士が接続し、不整合分を解消する電流はそこに流れ出ます。その後に電源/GNDで基板同士の整合も取れ、ようやく信号の接続へ至ります。
余談ですが、流入する電流から回路を守るという点では、ESDによる影響もありますね。気を払っているポイントは活線挿抜とかなり近しいと思います。当社で実施している対策としては、部品が帯電しないようにした梱包形態(オプション)があります。
また、独自開発のESDプロテクティブデバイスなども販売しています。回路構成で工夫がされたり、半導体デバイス側で耐性を持った製品も多くなってきていますが、もう一つの砦として多くのお客様でお使いいただいています。少しだけPRでした。
メイティング・シークエンスに話を戻しますと、USB以外でもいろいろあります。また、2段階ではなくもっと多い段階でシークエンスが組まれている例もあります。カードエッジや、記憶装置や通信機器に使用される高速のI/Oなどでは基板側、また基板で出来たパドルカードと呼ばれるケーブル側コネクタ部品にシーケンスを設けることもあります。
それらでは、
① 電源/GND
② 低速系の制御やID信号
③ 一番センシティブな高速伝送用の信号
と3段階に分けての嵌合が組まれることが多くなっています。パドルカードの場合は完全に嵌合部パターンをずらすこともありますが、中間にスリットを入れることでそれに代用しているケースの方も多く見られます。
公差でのワーストケース解析はさまざまな機構部品で実施されます。もちろんコネクタでも実施します。すべての寸法公差が都合が悪い側に揃った場合でも保証すべき機能を満たすというものですが、活線挿抜では少し考えを追加しなくてはいけません。
ひとまずシンプルな接続に関わる部分のみですが、
このように接続後に火入れを行うようなものではあまり考えなくてもいい 2. のような対応が活線挿抜では求められます。
ここでどのようなことを気にしているのか、単純化した例で見てみましょう。
均等に並んだ端子を持つコネクタが、やはり均等に並んだピンに刺さりに行くところをイメージしてください。
コネクタがピンへと真っ直ぐに向かっていけば、互いはめでたく正しく出会います。では斜めに向かって行ったらどうでしょうか?角度によっては1つのコネクタ端子が、2つのピンにまたがるように触れてしまいます。
完全に嵌合すればどちらも正しく嵌合しますが、「接続前から電気が来ている」活線挿抜では、図の斜め刺しのケースは事故につながってしまいます。
したがって、こういうことが起こらないような構造をコネクタで持つ必要があるのです。
具体的な例として右図に当社で過去に開発した、カスタムコネクタの事例を紹介します。
こちらは当社が誇るAuto I-Lock製品の11501Sシリーズをベースにカスタマイズした製品になります。
以前FPC接続で活線挿抜を行いたいというお客様がいらっしゃって、ノーズの長いカスタムハウジングを作り対応しました。このコネクタでは、嵌合に至るまでのガイドが長いため、FPCはその間に角度および位置を強制され正しい位置になるまで端子同士が接触しないので前述のような事故が起こらないのです。
では、すべてこのようにしてしまえばよいかと言えば、出来るだけ小さな基板占有面積でコネクタを配したい、活線挿抜をしないお客様にとってはコネクタが無駄に大きくなるので、やはり通常の11501Sの方がずっと使い勝手が良いのです。FPCで活線挿抜を行いたいというご要望自体も、あまりポピュラーなものではないのでカスタムコネクタとして開発・販売させていただいた経緯がございます。
さて、活線挿抜で気にすべき相手は刺さってくるコネクタばかりではありません。ショートを引き起こすような異物の侵入もあるでしょうし、人の手が触れてしまって、機械側の故障だけではなく出力によっては感電事故の可能性もあります。
ちょっとした例ですが、PCの横側を見てみましょう。
新しいコネクタだとTYPE-Aがついていなかったり、また向きにも例外もあるのかもしれませんが、自分が知る限りでは横並びならUSB-TYPE-Aの端子が大体下側に向かうようにコネクタが並んでいます。万が一小さな金属片が転がり入ってしまった場合、端子が上を向いているよりも下側に向いているほうがショートが起こりにくそうですね。理由を明記したものを見たことはないんですが、こういったちょっとしたところにもそういう対策思想が入っていそうです。
もっと細密な機器や、高速通信用の設備のコネクタではダストキャップやESD対策も兼ねた導電性を持つダスト兼ESDキャップが付けられていたりもします。活線挿抜ではコネクタが刺さっていない時もそういった考慮がされているケースが多数あります。
図9.ピン(プラグ)側とソケット側の例
活線挿抜の待ち受けのコネクタ側は、感電対策として指が入らないような構造を取っていたりもします。
また車載配策用のコネクタでは、触る機会が多いケーブル側にソケットを好まれます。
基板側にはピン(プラグ)タイプを望まれるケースが多いのですが、特定の活線挿抜個所では触電防止としてピンタイプではなくソケットタイプのコネクタが基板側に使用されたりもします。
この辺りに関連する規格としては(防水ばかり着目されやすいですが)IP規格があります。
そちらではIP2Xなら指が触れない(入らない)、3Xでドライバ等工具の先端、4Xではワイヤーと、構造によって侵入できなくさせるものの基準が設けられています。活線挿抜の安全確保にはこのような対応も必要です。もちろん、水が入ってくるリスクがあるのならば、IP66・67等の後ろの文字側も高い構造を採用する必要がありますね。この内容に関しては、コラム内別記事「コネクタは戦っています!? 接続不良の要因とその対応について」の「異物の侵入に対する試験・規格 IPXX」もご参照いただけると嬉しいです。
今回はショート不良とオープン不良で懸念されるリスクの差に始まり、主には活線挿抜に使用されるコネクタのポイントについて説明させていただきました。
活線挿抜とそうでない場合で、最適なコネクタが必ずしも一致しない例もちりばめています。多くお客様のご要望に沿った新製品の開発を行うことは、我々の重要な責務ではあります。
一方で、今あるものの中から本当に最適なコネクタを、お客様と一緒になり選定していくことも、コネクタメーカとして重要な役割と考えています。
現在検討されている用途に最適なコネクタは何か、色々な観点でのご提案が出来るかと思います。是非弊社営業にお申し付けいただくか、サイトで気軽にお問い合わせ していただければ非常に嬉しく思います!!