コネクタメーカー イリソ電子工業

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液体金属応用への挑戦 ~ガリンスタンを利用したコネクタ開発~Challenges in Liquid Metal

液体金属応用への挑戦 ~ガリンスタンを利用したコネクタ開発~

みなさんはガリンスタンという合金をご存知でしょうか?

ガリウムとインジウムと錫からなるこの合金は、-19℃という金属として極めて低い融点を持ちます。すなわち、常温下では液体である金属なのです。その毒性によって使用が制限されている水銀の代替え材料として体温計等に使用されているほか、さまざまな応用が研究されています。

イリソ電子工業でも、このガリンスタンの特徴をコネクタ技術へ応用することで、全く新しい製品が生み出せるのではないかと考えました。現在まで、さまざまなコンセプトを考え、実用化に向けて研究を続けています。今回はその一端をご紹介させていただきます。

ガリンスタンの特徴からの可能性と課題

ガリンスタンの応用を考えた時、もちろん何よりも特徴的なのは

  • 常温で液体である
  • 他の常温で液体である金属に比べて毒性が低い

という点です。

毒性の低さは製品の安全性につながり、個体に比べて自由な形状が取れるという利点があります。

コネクタには機構を実現するために複雑な形状を持つ金属部が存在します。

また、加工性の観点から小型化への限界も、液体であれば超えられるのではという可能性も見出せます。

一方で、液体なのでそのままでは流れてしまいますので、何らかの保持する方法が課題となります。

保持に対してのヒントとなる特徴としては

  • 蒸気圧が低く高熱にさらされても気化しない
  • ガラスを含む多くの材料に対して、高い濡れ性と付着性を有する

があり、製品化へはこの特長を利用することができます。

一方でコネクタにする場合の懸念点として下記の個体金属との関係性に懸念があります。

  • 他の固体の金属と触れていると染み込み、脆化を起こし、その金属の強度が下がる
  • 金属間化合物を生成しやすい

コネクタとして製品化するためには、各々の部位の要求に併せて、金属が個体である部分と液体である部分を使い分けることが必要となりそうです。すなわちガリンスタンと他の個体金属を組み合わせる=接触という形でのマッチングが課題となります。

簡単にまとめると下記のような可能性と課題が明確になります。

期待する利点/可能性

動きに制約されにくい

・低応力嵌合:超多極コネクタ
・自由な方向に低ストレスの可動域を持つ
     究極のフローティングコネクタ

形状に制約されにくい

・複雑な形状への有効充填
・静電シールドへの応用

小型化が可能

・極小/極薄コネクタへ
・超高共振点=高速伝送化

検証・解決すべき課題

いかに保持・維持するか?

・固定する
・形状維持
・気化を抑える

個体金属とのマッチング

・接触相手を健全に維持する
・自らも変性しない

その他コネクタとしての基本的信頼性確保

・接触抵抗
・耐環境特性等

挑戦① ~フィルム型コネクタの開発~

コンセプト概要

前項で上げた利点のうち小型化の観点で、ゼロハイトで低接圧のコネクタとして、FPC上に構成するフィルム型コネクタを着想し、開発を行っています。

具体的には個体金属でバンプを形成したオス側のフィルムに対して、VIAカップに充填したガリンスタンを表面張力で維持することでメス側のフィルムを作り、絆創膏のようなコネクタ接続を実現させようとするものです。

FPCに形成するフィルム型コネクタ

事前検証例:ガリンスタンの気化と他の個体金属との相性

開発に先立っておこなった事前検証の一例をご紹介します。

下記は銅板に各種メッキ処理を施したものにガリンスタンを付着させ、高温放置して

  • ガリンスタンの気化による質量減
  • 他の金属への侵食や発生する金属間合物

の確認を実施した際の概要です。

この結果よりガリンスタンの気化の懸念を解消し、特定の金属において接続相手とできる可能性を確認しています。

懸念事項と確認項目と結果

銅板の表面処理ガリンスタンとの反応の確認事例

試作へ:フィルム型コネクタのプロトタイプ完成

前項のような検証を重ね、コンセプトの実現性を確信し、実際の試作品を作成しています。

ガリンスタンを充填するメス側のフィルムには下記のようなVIAカップを、オス側フィルムにはバンプを形成しました。

試作したVIAカップ(メス側フィルム)

オス側フィルムバンプ形状

上位構造を接点とし、6×6の36ckt配した2枚の方形のフィルムで対となるコネクタを試作しました。

下記に示したいくつかの画像は、実際の試作品の構成図と写真になります。

フィルムコネクタ試作品

試作されたコネクタは、コネクタとして十分機能するレベルの接触抵抗値で嵌合が可能なことを確認しています。

また、現在も継続して環境への依存や信頼性の評価を実施しています。下記はその一部の事例です。

フィルムコネクタの接触抵抗の確認/初期値と環境影響確認事例

現在は並行してより具体的なアプリケーションとなるターゲットも調査中です。一緒に用途検討いただける協業先様も模索中ですので、ご興味がある方はお問い合わせください。

挑戦② ~高電流フローティングコネクタへの応用~

高電流と時の可動バネでの発熱:解決すべき課題

フローティングコネクタを主力製品としている当社では、そのバリエーションとして高電流対応の製品もリリースしています。代表的な製品としては、小型サイズながら15Aの大電流容量を確保した10112B/Sシリーズがあります。

10112シリーズ

https://www.irisoele.com/jp/series/view/10112B/

https://www.irisoele.com/jp/series/view/10112S/

コネクタとして大電流を流すためには、抵抗損失によるジュール熱をいかに下げるか、すなわち電流経路各部分での低抵抗化が一つのポイントになります。

10122B/Bシリーズにおいては可動片を分岐させることでフローティングの動きを妨げずに低抵抗化を実現、加えて4点接点構造で信頼性を向上させた高耐熱(125℃定格)コネクタです。可動が必要な基板間接続におけるパワー伝送用に魅力的な選択肢であるとのご評価をいただき、多くのお客様に採用いただいております。

当社の大電流フローティングコネクタ 10122B/S(15A対応)

当社では現状に満足せず更なる高電流対応を検討しています。

一方、この工夫されたバネ構造を持つ10122B/Sシリーズにおいても、可動バネの部分が高電流通電時の一番大きな発熱の熱源となっています。位置ずれを吸収し、組立性の向上や基板実装部でのストレス解消を特徴とするフローティングコネクタでは、可動部のバネ強度を極端に強くできません。

そのためどうしてもバネ部を細くもしくは薄く絞り込んだり、あるいは長く迂回させる必要が生じて、電気抵抗がどうしてもある程度高くなってしまいます。

現在も端子構造設計のさまざまな工夫により高電流対応と可動性の両立を目指しているのですが、並行して全く別のアプローチからブレークスルーを起こす方法が無いかを検討しました。

高電流対応と可動性の両立の可能性

液体金属で可動する端子の着想

そしてこの課題に対して、研究を続けていたガリンスタンが応用できるのではないかと着想しました。

  • 液体であるためシンプルな構造でもバネに頼らず自由な動きを確保できる:発熱域の削減
  • 固有抵抗値(6.27×10-7Ω・m)は高いが、充填体積によって低抵抗化が可能:発熱量の削減

そこで10122B/Sの端子をベースとして、2ピースに切り離した上で可動バネを大胆にし、液体金属が充填・密封されたジョイント部品で再接続する構造を検討し、実際に試作・評価の実施をしました。

可動バネの液体金属への変更の構想

試作での効果確認とさらなる性能改善へ

サンプルの作成と評価を実施したところ、10122の端子を流用しての初回の試作品では高電流通電時の熱発生量の4割近くが削減できました。

次のステップとして、液体金属による端子のジョイントをより有効な状態にする端子構造の設計を完了しています。

事前のシミュレーション結果として、現行品対比で65%の熱発生量の削減を見込んでいます。

液体金属応用による大電流フローティングコネクタ 通電時の熱発生量の削減

これまでの確認で、液体金属の高電流フローティングコネクタへの応用の大きな効果が確認できています。今後も設計の最適化から、生産プロセスの構築やコストの最適化など実際の製品化までの道のりはまだまだ長く続きます。皆様のお役に立てることを目指しながら更なる開発を続けていきます。

イリソ電子工業では、この他の液体金属の応用範囲について、ご要望を承っております。また共同開発のお申し出もお待ちしています。

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